「マイナス・ゼロ」復刊

書店に立ち寄ったら、広瀬正の「マイナス・ゼロ」が平積みになっていた。
ずいぶん前に絶版になったと聞いたことがあったので、あれ?と思って手にとってみたら、
復刊みたい。しかも、本屋大賞の5周年記念企画「この文庫を復刊せよ!」で一番希望が多かったとか。復刊希望の書店員さんのコメントも熱いです。http://www.hontai.jp/history/fukkan2008.html

私はのどかな時代からのSF読者だったので、あいかわらず、オールタイム・ベストはハインラインの「夏への扉」です。ハインラインは悪気のないだめなアメリカ人ぽい感じで、タカタカしすぎてる面がでちゃうとやな作風なんですが、つきぬけた前向きな楽観主義・正義を信じるハッピーエンド志向といういい面でのよきアメリカぽさが一番出ている作品で、もちろん、話としてもすごく面白いタイムとリップものです。で、「夏への扉」に匹敵するのはこれしかない!日本のタイム・トリップものの大傑作が、「マイナス・ゼロ」です。

「マイナス・ゼロ」は「夏への扉」とジャンルを同じくする名作ではありますが、「夏への扉」と違ってやはりこれは日本の作品なのです。びしばししてない、ほんのりとした温かい感情につつまれた物悲しさが、絶妙な雰囲気でした。今読み返すと、流行の昭和のノスタルジーを感じるかもしれない。それでいて(コドモな私の読む限りでは)構成もキッチリしててSFとしても文章としても説得力十分(語り口は平易)で、ムードに流される類の話ではないのでした。

こうして折角復刊されたので、ぜひ売れていろんな人に読んで欲しいと思います。表紙等は昔の通りのかんじ(同じ絵かわかんないけど和田誠さんだった)なのがうれしかった。当時、文庫としてかなり厚めだったので(広瀬正のはみなそうだった)それも手にとられにくい一因だったのでは、と思うのですが、きょうびあの程度の分厚い文庫はいくらでもあるので、昔よりなじみやすそうだし。

ついでに、他の作品も復刊してくれたらいいと思いますが、無理でも図書館や古本屋にはあるだろうし、
まずは「マイナス・ゼロ」をたくさんのひとが読んで、もっと知ってるひとが増えてくれたらいいなあ。
昔のは全部集英社文庫から出たのを持ってました。今実家だけど。

■マイナス・ゼロ 改訂新版 (集英社文庫 ひ 2-1 広瀬正・小説全集 1)
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?USID=&W-NIPS=9983501007

■マイナス・ゼロ 以外の作品(文庫で出てたやつ)
ツィス
エロス
鏡の国のアリス
T型フォード殺人事件
タイムマシンのつくり方(短編集)

そういえば、タイムマシンの作り方に収録の「『時の門』を開く」はハインラインの「時の門」(タイムパラドックスものの名作)の評論で、なのに「時の門」が当時手に入らなかったので(その後ハヤカワの短編集で出た)ものすごく読みたくなって悶々としたものでした。

今よくみたら、「広瀬正・小説全集 1」となっているので、他のも続けて出してくれるのかも!